- 脊髄刺激療法(SCS)について
- 脊髄刺激療法(SCS)と
鎮痛の仕組み - 脊髄刺激療法(SCS)の対象
- 脊髄刺激療法(SCS)の
特徴・メリット - 脊髄刺激療法(SCS)の
期待される効果 - 脊髄刺激療法(SCS)の機器
- 脊髄刺激療法(SCS)の流れ
- 脊髄刺激療法の注意事項
脊髄刺激療法(SCS)について
慢性難治性疼痛の治療として、脊髄刺激療法があります。
脊髄神経近くの硬膜外腔に刺激電極を留置し、断続的な電気刺激を与える物です。
入院が必要な治療であり、神経節ブロックよりは大がかりですが、外科手術よりは手軽です。
日本では入院(1週間)が必要な治療で、連携病院にて当院の院長が施行します。
術後の刺激調整は、当院で行います。
メリット
- 低侵襲:背部に3㎝程度の切開で済みます。
- トライアル:お試しが可能です。効果が無ければ抜去して元の状態に戻ります。
- 痛みを50%程度軽減する事を目的とします。完全に無痛にはなりません。患者様の生活の質(QOL)を改善します。
脊髄刺激療法(SCS)と
鎮痛の仕組み
「痛み」と認識する仕組
痛みは、身体に炎症や外傷など何かしらの損傷が起こったことを報せる信号です。
この信号は、患部の神経から脊髄へ至り、脊髄から脳に伝わって「痛い」と感じることになります。
脊髄刺激療法の仕組み
痛みを脳に伝える脊髄に電気的な刺激を与えることによって、脳への信号の伝送が抑制され、痛みを認識しにくくなります。
それによって痛みの感覚が和らぎます。
鎮痛の仕組み
「痛い」という感覚は、末梢神経から脊髄後部へと入り、脊髄本体が後部でややへこんだ部分の側にある脊髄後策路という経路を伝って脳へと伝送されます。この時、脊髄の後部に電気的な刺激を与えることによって、GABA(γ-アミノ酪酸)やアセチルコリンなど、痛みの伝送を抑制する物質が多く分泌されるようになり、神経の興奮が鎮まり、痛みが和らぐ仕組みになっています。
血管拡張による鎮痛効果
脊髄に電気刺激を与えることで、末梢神経は血管を拡張する働きのある物質(カルシトニン遺伝子関連ペプチドや一酸化窒素など)を増加させます。
血管が拡張されることで、患部周辺の緊張が緩むことで血流が快復し、痛みが和らいでいきます。
脊髄刺激療法(SCS)の対象
脊椎・脊髄疾患による腰下肢痛
- 腰部の手術後症候群による痛みやしびれ
- 腰部脊柱管狭窄症による痛みやしびれ
- 腰椎の多数回手術による痛み
- 癒着性くも膜炎による髄液の流れの低下
脊椎・脊髄疾患による頚部、肩、上肢の痛み
- 頚部の手術後症候群による痛みやしびれ
- 頚部脊柱管狭窄症による痛みやしびれ
末梢血管障害(PAD)による痛み
- 閉塞性動脈硬化症(ASO)による足のしびれや痛み
- バージャー病(難病指定)による四肢の末梢血管の閉塞
- レイノー病・レイノー症候群による痛みやしびれ
複合性局所疼痛症候群(CRPS)による激しい持続痛
- 反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)による疼痛
- 神経に損傷を受けて傷が治ったあとにおこるカウザルギーの痛み
その他の神経障害性疼痛
- 脳卒中後におこる肩手症候群の痛み
- 帯状疱疹後神経痛の痛み
- 開胸術後の疼痛
- 外傷・放射線治療による腕神経叢損傷による痛み
- 糖尿病性ニューロパチーによる末梢神経の痛みやしびれ
- 脊髄の一部機能が遺された不完全脊髄損傷による痛み
- 切断された部分が痛む断端痛・切断されたはずの四肢が痛む幻肢痛
- 難病指定の多発性硬化症による感覚異常
脊髄刺激療法(SCS)の
特徴・メリット
まずはリードと呼ばれる刺激電極のみを刺して、脊髄刺激の効果を確認するトライアルを行います。患者様本人が効果を確認できたら、リードと刺激装置の本植込みを行います。一方効果が感じられない場合はリードを外し、他の治療法を検討します。また、脊髄刺激が必要なくなったときには、リードと本植込みした刺激装置を抜去し元の状態に戻すことも可能です。
電気刺激によって痛みが和らぐことで、内服薬の量を減らすことが可能で、抗炎症薬による副作用などのリスクも低減できることもメリットの一つです。
刺激装置は患者様にあわせて様々な設定が可能で、痛みの状態に応じてご自身でコントロールすることが可能です。また複数のリードを挿入して痛みを調整できます。もし、日常生活の動作によってリードがずれてしまうことがあっても、すぐに再調整して元の位置に戻すことが可能です。
脊髄刺激療法(SCS)の
期待される効果
脊髄刺激療法は痛みを完全に無くすものではなく、半減させる程度の効果があるとされています。
また根治治療ではなく、刺激によって痛みを低減させることで、心身の活動の妨げになる痛みの要素を低減させることを目的とした治療です。
脊髄刺激療法(SCS)の機器
リード(刺激電極)
先端に体内に埋め込む刺激装置から発生する電流を流すための電極がついた導線で、脊髄の外側を守っている硬膜の外側にある硬膜外腔という小さな隙間に差し込みます。トライアルではこのリードだけを硬膜外腔に差し込み、体外からリモートで電流を流して効果を判定します。
刺激装置(ジェネレータ)
電流の発生と調整のための回路と電池を内蔵した装置で、腹部などじゃまにならない場所の体内に植込みます。装置には充電式と電池交換式があります。電池交換式の場合、使用頻度にも影響されますが、平均2~5年程度の電池寿命で、電池が切れた際には摘除して機器を交換します。
リモートコントロール(患者プログラマ)
日常生活において、患者様が痛みを感じたときに、体内の刺激装置の部分にあてて、電気刺激を調節するための装置です。
脊髄刺激療法(SCS)の流れ
当院は手術前の診察、術後のケアが可能です。
トライアルについて
まずトライアル(お試し)として、背部に刺激電極を留置します。
約1週間、入院しながらご自身で刺激方法を体感して頂きます。
効果があると納得された場合には、本植込みを行い退院となります。
脊髄刺激療法の注意事項
併用できない医療機器・治療
脊髄刺激療法の刺激装置は繊細な電子回路によって構成されているため、装置を埋め込んでいる間は同時に併用することができない以下のような医療機器や療法があります。これらを併用してしまうと刺激装置が壊れてしまうことや、身体に重篤な損傷が及ぶこともあり危険です。
- ジアテルミー(高周波電磁電流療法)
- MRI(磁気共鳴画像)検査※
※ 従来の刺激装置はMRIに対応せず、装置が壊れることや身体へ重大な影響を及ぼす可能性がありました。しかし、近年、MRI対応の刺激装置が開発されており、この刺激装置を埋め込んだ場合でもMRI検査を受けることも可能です。1.5T・3.0Tどちらも撮影可能です。
注意が必要な医療機器・治療
装置が完全に損傷する、または人体に重篤な影響がでるまでではなくとも、装置に悪影響が出たり、人体に影響が起こったりするような医療機器や治療などがあります。これらの医療行為が必要になった場合、担当医師と相談しその指導に従ってください。
- 心臓ペースメーカー
- 植込み型・体外式除細動器
- 体内の結石に対する砕石術
- 電気メス
- 放射線治療
日常生活における注意事項
刺激装置を体内に埋め込んでも、通常の日常生活に支障をきたすことはほとんどありません。
運動制限
ロッククライミングやダイビングなど、なんでも大丈夫です。運動制限はありません。
体位の変化
体を大きく動かすことでリードの位置がわずかだけずれてしまうことがあります。わずかな位置ずれではまったく効果がなくなることはありませんが、刺激の感覚が異なってしまうこともあります。リードのずれは刺激装置の故障ではありませんが、刺激に異常が感じられる場合は担当医師に連絡してください。
家電製品
ほとんどの家電製品は、適切に設置され正常に動作している限り、刺激装置と干渉することはありません。
携帯電話
携帯電話やスマートフォンについては、現在のところ特に重大な干渉の報告はなく、日常生活で使用する範囲であれば問題ないとされています。
もしご不安のある場合は医師にご相談ください。
金属探知機
空港などに設置された金属探知機は刺激装置が反応してしまうことがあります。そのような設備がある場所では、刺激装置を埋め込んだ際に交付される患者手帳を示して、手によるボディチェックを受けるようにしてください。また、ハンドヘルド型の金属探知機による検査の場合は、係員に刺激装置の植込み部分に触れないように申し出てください。