選択的ETS
(胸部交感神経切除術)
全身麻酔が必要な「手術」です。ETSの適応は、手掌と腋窩の多汗症です。
特殊な気管チューブを使用して片方の肺を虚脱させた後、脇の下と胸部を切開して3mmの胸腔鏡を2箇所から挿入し、目的とする胸部の交感神経にアプローチします。
手術は日帰りで、手術痕も目立ちません。
ETSには、焼却術・切除術・クリップ式などの切除方法があります。
医療機関によって、施術部位に工夫をしています。
当院で採用しているのは、交通枝だけを離断する方法です(選択的ETS)。
選択的ETSの大きな特徴として、交感神経の本幹を温存できる点が挙げられます。
選択的ETSの
メリット・デメリット
メリット
- 代償性発汗を最小限にできる
- 日帰りで治療することができる
- 全身麻酔下で、1時間ほど眠っている間に手術が終了する
- 効果がほぼ100%で、術後すぐに手の異常発汗がおさまる
- 2ヶ所に3mm程度の傷ができるだけで、目立ちにくい
- 効果は永続的
- 2ポートで行うため止血能力が高い
手術のデメリット
- 術後2週間ほど背部痛がある
- 稀に、術後しばらく期間(10数年)が経過した後に再発する場合がある
- 代償性発汗の程度は本幹切除よりは少ないが、それでもゼロではない
選択的ETS・術式の工夫
傷を最小限にする:
3mm胸腔鏡を使用
3mmの術創は縫合の必要がなく、手術痕が目立ちません。
止血能力が高い
2ポートで実施
1ポートでの手術もできますが、安全性と正確性を考慮して、2ポートで実施します。
医師が視野を確実に確保して、目視により目的の交通枝を離断します。
交感神経の周辺には毛細血管が集中しているため、出血する場合もあります。2ポートには、止血能力が高い利点があります。
レントゲン透視下で
椎間の位置を確認
胸腔内の最上位には、多くの場合に第2肋骨が見えますが、第1肋骨である可能性も否定できません。
ETSでは、交通枝の切除部位が極めて重要であるため、レントゲンを使用して、間違いなく第2肋骨であることを確認します。
手掌の血流量をモニタリング(レーザードップラー血流計・LSFG)
多汗症の患者様は手掌の血行が悪く、もともと手足の体温が低めです。これに対して、交感神経を切除すると、結果的に手掌での血流量が増加します。
よって、血流量を測定すると、手術中に交通枝切除の効果を判断することができます。
起こりうる合併症
ETSは多汗症に対する極めて有効な治療方法ですが、「代償性発汗」が生じる可能性は少なくありません。
代償性発汗について
代償性発汗とは、ある部位の発汗が手術によって抑制される代わりに、別の部位で発汗量が増える副作用です。胸部の交感神経を切断すると代償性発汗が生じる場合があり、手掌の発汗量を抑える手術後の代償性発汗では、大腿部や背中の発汗量が増加します。傾向として、もともと発汗量の多い人や肥満の人、筋肉質の人に多く認められますが、該当しない人にも発生する場合があり、手術前の予測は困難です。
当院では、できるだけ代償性発汗を減らすために、交感神経の本幹を温存する選択的ETSを採用しています。
選択的ETSの費用
適応部位 | 治療頻度 効果時間 |
費用 | 副作用・問題点 |
---|---|---|---|
手・脇 | 永久 | 約8万円 (片側・日帰り全身麻酔) |
代償性発汗 (切除方法に工夫が必要) |
通常の保険診療になります。初診料・再診料がかかります。