代償性発汗について
ETS手術の副反応として、「代償性発汗」があります。
手・脇・一部顔の発汗は減少するが、胸・背中・下半身などの発汗が増えてしまう現象です。
少なくなった汗と全く同じ量が、他部位に上乗せされる訳でもなく、発生部位や程度の予測方法などもありません。
現在、代償性発汗の機序の解明には至っていません。
しかしながら、交感神経の切除部位に様々な工夫がなされ始めてたことにより、代償性発汗の発生が何に起因するのかが分かってきました。
交感神経「本幹」の温存率
これが、代償性発汗を最小限にするキーワードです。
日本国内の論文や発表は少なく、エビデンスを求めるためには海外文献を当たる必要があります。
「多汗症患者に対する、ダビンチを使用した選択的ETS」
Robotic selective thoracic sympathectomy for hyperhidrosis
Mini-invasive Surg 2020;4:14.
交感神経の解剖について
右側の交感神経の図になります。太い本幹と、分岐する交通枝があります。
国内で最も多い施工方法は、T3・T4本幹切除です。(低位切断)
T3~T4の交感神経本幹そのものを摘出する術式もあります。(摘出法)
本幹温存の術式としては、交感神経本幹外側20~80%切除(部分切除法)や、
当院で採用している選択的ETS(本幹温存・責任交通枝のみ切除)などがあります。
このように、日本国内でも様々な切除方法が施行されており、当院はその追跡調査データがあります。
腰部交感神経節ブロックによる足汗治療(足底多汗症)を提供しているからです。足底多汗症患者様の6割は、過去にETS手術を行っている方で、北海道~九州・沖縄まで、全国から足汗治療にいらっしゃいます。
ETS手術後の患者様、つまり代償性発汗をお持ちの患者様から、沢山の情報を得られました。
僕自身が実感している事は、「代償性発汗の程度は本幹の切除率に比例する」という事です。
本幹の切除が多ければ、代償性発汗の程度も大きい傾向にあります。
もう一つは、手汗の減少量も本幹切除率に比例します。本幹摘出した場合、手・脇はカサカサになります。アカギレが発生する場合も多いでしょう。
本幹を切るか、交通枝を切るか。
本幹を切るにしても、完全切除なのか、部分切除なのか。
術者の考え方や、患者様のニーズにより、結果は大きく変わるのです。
当院では、代償性発汗は極力少ない方が良いと考えております。
また、手・脇汗を止める程度も、カサカサになるのではなく、「普通になる」のが大切だと思います。
乾燥しすぎるのも、社会生活上問題になり得ます。(ピアニストや特殊な職業の方は別です)
このように、一言にETS手術と言っても、切除方法やその結果に様々な種類がある事を知って頂ければと思います。